アラーキーの言葉に背中を押されて、空の写真を撮った。

火曜日、心配の原因がひとつ減った。

その心配は、自分が一番大事にしていることと関わるのだか、自分には何もできることがなく、ただ待って見守るしかできなかった。この1週間ほどは、文字通りこころくばるも、もどかしさの募る日々だった。

結局、その心配は火曜日に解消した。だけど、これからも次々と湧き上がる心配事をどのように捌いていけばよいのだろう。できるだけ、こころ穏やかに過ごすためのコツをいつも探している。

少し遡って日曜日、ぼんやり見ていた新聞で目に止まった記事。それは天才アラーキーこと、写真家荒木経惟さんへのインタビュー*1。そのなかのことば。

空や花を撮り続ける理由は、愛への未練じゃないかなあ

僕はこれを見て、ふと考えた。

空の写真を撮るのは自分のこころを表現すること?心配事の正体は未練なのかも?

気になって本を彼の手にとってみた。

アラーキーの写真集『愛のバルコニー』

Amazon.co.jpの紹介より引用。

いつもそこには妻・陽子と、愛猫チロがいた……さまざまな愛を刻んできた荒木家バルコニー。1983から2011まで、30年の愛と死を記録した、感動の写真集。あとがき対談:水原希子

1990年に妻の陽子さんが亡くなり、2010年には愛猫チロちゃんが亡くなった。そんな時期も含めて自宅のバルコニーを撮り続けた*2

あとがき対談で、女優の水原希子さんと対談してこんなことを語っている。

荒木 左手で凧をあげて、右手でシャッター。荒木又右衛門っていう人がいたんだよ、同じ荒木でね、知ってる、二刀流って(笑)。こういうのを見ると「隣に彼女がいたな」とか、部屋で彼女が餅を焼いている匂いを思い出すね。写真っていうのは見る人を“その時”に戻すんだよね。
水原 それ、すごくわかります。私も何年後かに見ると、撮影の現場に入るときから帰るときまでの全部を思い出しちゃうんですよ。
荒木 出てきちゃうだろ、全部。だってさ、写真っていうのは“現在”がないんだよ。全部すぐ“過去”になっちゃうの。ところが、見るときにはまた全部“現在”になるんだよ。不思議なんだよな。撮った瞬間、プリントした瞬間に“過去”になるのにな。

写真はその場その時の光を捉えるだけでじゃなく、人の感情も刻み込んでいるということなのかな。撮影者にとって、被写体にとって、写真を見る第三者にとって、それぞれの思い入れが生まれるのだと思う。

そういえば、椎名林檎さんの曲「ギブス」の歌詞に登場する「あたし」は、写真に取られるのを厭がる。写真の中の過去の自分は若いままだけど、目の前の「あたし」は年老いていってしまうから*3

考えてみると、写真は不思議なツール。誰かと一緒に楽しむものでもあるけど、自分のために、自分の感情を振り返るために使っても良さそう。アラーキーはフィルムカメラへのこだわりがあるようだけど、僕は身近にあるデジタルツールiPhoneを使わせてもらおう。今の感情をあるがままに受け入れるために、ちょっとカメラを空に向けてみよう。

夕陽を眺めて、写真を撮ってみた。

月曜日、空を見上げて写真を撮ってみた。

恥ずかしながら、iPhoneで撮った素人写真。調子に乗ってiPhone6のタイムラプス(低速度撮影)で夕日が沈む様子も撮ってみた。

夕陽を眺めたときの感情は、僕の拙い文章力では表現できない。見てもらって自由に感じてもらえばいいけど、自分のための日記のようなもの。いつかこれを見なおした時に、この日の考えていたことや感じていたことは蘇ってくるのかな。

見せたい景色がある。

なぜ夕陽の写真だったか。

それは、佐藤秀峰さんの作品『ブラックジャックによろしく』*4 第4巻で、何度か出てくる夕陽の場面に影響されて。

タイトル ブラックジャックによろしく
著作者名 佐藤秀峰
サイト名 漫画 on web

大事な人に見せたい景色がある。世界を見てほしい。たとえ側に居なくても、想いが伝えられたら嬉しい。この世界は美しくて、生きる価値があると伝えたい。苦しくて、悲しくて、辛くて、消えてしまいたい気持ちときに思い出してほしい。感情を否定する必要はないが、自分の存在は否定しないでほしい。現在運良く生き延びている僕も、まだ生きられると思えるようになったのだから。

喜びも悲しみも、すべてはあって良かった。

再び『愛のバルコニー』より。

荒木 東の空は日が昇っていくでしょう。豪徳寺では西の空ばっかりだったの、じつは。でも新居では東北への祈りも込めて東の空ですよ。豪徳寺のバルコニーをアタシは写場シャバっていってきたんだけど、写真を写す場所である前に、陽子やチロちゃんと生きてきた場所だからね。その前は喜多見のほうにいたんだけど、引っ越したときからこのバルコニーを撮りはじめて、30年間。

30年間続く撮影。とても長い時間。たぶん、ことばで説明しようのない本人にしかわからない想いが詰まっているのだろう。鑑賞する僕たちは、そのほんの一部分だけに触れて感動できる。あるいは自分の感情を投影しているだけかもしれないけど。

荒木 今は毎朝、屋上から東の空を撮ってますよ。やっぱり陽はまた昇るよ。でもまた雲がそれを隠したり見えなくしたりするんだよな。すべて6時から8時の間に人生のドラマがある。突如雲が来て隠れたりするときもあるし、最初からまっ茶色で何も出ない日もある。面白いね。全部が空にあるね。

そうか、陽はまた昇る。夕陽も悪くないけど、昇る太陽も見ないとダメだな。今度は東の空に昇る朝日の写真を撮ることにしよう。過去を認めて、未来に目を向け、みっともなくとも今をしっかり生きていこう。こんな曲を聴きながら。

*1:『山陽新聞』2014年10月26日 朝刊 15面 「時代の開拓者」

*2:荒木夫妻の共著はこちら。

映画化もされている。

*3:過去を見ないで、いまの「あたし」を見てほしい、という想い。この曲全体では、過去のことはどうでもいい、未来はどうなるかわからない、ただ現在の「あたし」を抱きしめてそばにいてほしい、というメッセージ(だと思う)。

アルバム『勝訴ストリップ』の収録曲。
 

*4:かつては紙媒体で出版されていたけど、いろいろあって漫画 on web で無料で読める。AmazonでもKindle版は無料となっている。

出版社が変わった『新・ブラックジャックによろしく』。