シーズンの締めくくり。次へ進むための儀式。 - 2016 ファジアーノ岡山 ファン感謝デー

サッカーJ2ファジアーノ岡山にとって2016シーズン最後の行事「ファン感謝デー」が、2016年12月10日(土)に実施された。「ファン感謝デー」はその年のファンクラブ会員限定イベント。シーズンパス*1を購入した人も自動的にファンクラブ会員となるので対象となる。

2016シーズンパスを持つ僕のところにも招待ハガキが、12月1日(=「J1昇格プレーオフ」決勝の3日前)に届いていた。

12月4日「J1昇格プレーオフ」決勝での敗戦から6日後の「ファン感謝デー」。この行事は、クラブにとっても、選手にとっても、サポーターにとっても、来季へ向けて歩むために必要な、節目の儀式だったのかもしれない。少なくとも僕にとっては、敗戦後の喪失感を癒やし、心を落ち着けて、感謝の気持ちを確認するための通過儀礼だった。

前年に続けて、2016年度ファジアーノ岡山「ファン感謝デー」に参加してきた。

儀式の効能

子どもの頃、学校で毎年繰り返される始業式とか終業式とかの儀式(セレモニー)について、「何でこんな面倒くさい事するのか?」と思っていた。

大人になると、節目に儀式をすることの意義を少しは感じるようになった。儀式は全く無駄な時間ではなくて、役に立つこともあると考えるようになった。人生に節目をつくり、気持ちに区切りをつけて、心を整える*2のに役立つのではないかと。勢い良く成長する竹も、節目をつくることで丈夫に育つ*3

歴史的な戦いになった2016シーズンが終わってしまうことを惜しむ気持ちが、僕の中にはあった。だけどいつかは区切りをつけて、次へ進まねば。年内最後の行事となった「ファン感謝デー」は、次へ進むための儀式なのだと受け止めている。

加地プロデューサー

2015シーズンから、元日本代表・加地亮選手が加入したことにより、ファジアーノ岡山「ファン感謝デー」イベントのエンターテインメント性が一気に高まったらしい。「らしい」というのは、僕自身が2015年は参加したけど、2014年以前は知らないので、両者を比較できないから。それでも加地選手といえば、ガンバ大阪時代のファン感における演者兼演出家としてのご活躍ぶりも伝え聞いてはいた。

実際、加地選手がその演出に関与するようになった2015シーズンのファジアーノ岡山「ファン感謝デー」は笑劇的であった。岡山の人びとは、「加地プロデューサー」=「加地P」の恐るべき企画力を目の当たりにしたのである*4

2015シーズンは「J1昇格プレーオフ」へ進出できなかったので、最終試合はJ2最終節11月23日(月・祝)。そして「ファン感謝デー」が12月12日(土)だったので、公式戦終了から中17日間の準備時間があった。

一方、2016シーズンは「J1昇格プレーオフ」へ進出し、決勝戦12月4日(日)まで勝ち残った。そして「ファン感謝デー」が12月10日(土)なので、中5日間しか猶予がなかった。

タイトなスケジュールの中、「ファン感謝デー」のクオリティを少しでも高めるべく、岡山ドームにほど近いファミレス「COCO'S 大野辻店」でパフェを食べながら、寝る時間を惜しんで打ち合わせ・準備を重ねていたという。

そんな加地選手は、2016シーズン中盤の7月に行われたインタビューで「優勝したい」と語っていた*5

プレーオフ出場圏内にいるチームの成績について問われると、

いや、思ったより頑張っているし、いい位置につけていると思います。でも、俺は優勝したいんですよ。(J1昇格)プレーオフに進出したいんじゃなくて、優勝したい。だから、ちょっと不満です。

J2優勝すれば、「ファン感謝デー」のための準備期間をしっかり確保できるし!*6

さらに、優勝するためには「もっと大胆に」変わる必要があると。

このチームでも、絶対に優勝できると俺は思うんですよ。ただ、もっと大胆に、一人ひとりが変わらないといけない。それは簡単なことじゃないし、これから迎えるシーズン後半戦の課題ですよね。

「ファン感謝デー」での加地プロデューサーの演出は、各選手に「もっと大胆に」なれという教育の一環なのだな。

同じインタビューで加地選手はこんなことも語っていた。

コツコツと勝点を積み重なるチームが、最終的には強いじゃないですか。何て言うのかな。「変えない強さ」と言うんですかね。変えることは簡単。でも、「コツコツと」につながるのは、「変えないこと」でしょ?その難しさと大切さを知らないといけない。俺はそう思うんですよね。

さらに、

ファン・サポーターの皆さんは理解してくれていると思うから言いますけど、結果として、J1に上がっても、上がれなくてもいいと思うんです。上がりたい気持ちがあるのは当然だけど、それよりも大事なのは、コツコツと積み上げていくこと。それから、「やれる」という自信を持つことです。

大胆に変わることと、コツコツ積み重ねた変えない強さを持つこと。

どちらも難しいけど、どちらも大事なんだなあ、と思う。

そんな加地選手、契約更新して2017シーズンも引き続きファジアーノ岡山に選手として所属することが、年末に発表された。

契約更新選手のお知らせ | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA

岩政先生

加地選手と同じく、2015シーズンから加入した元日本代表・岩政大樹選手。東京学芸大学を卒業して中学校・高等学校の数学の教員免許を持っている。インタビューなどで見せる理知的な発言も含めて、僕たちは敬意をこめて「先生」と呼んでいる。

2年間ファジアーノ岡山に在籍した岩政選手が、今シーズン限りで退団することが12月8日に発表された。「ファン感謝デー」の2日前。

岩政大樹選手の契約について | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA

私は「クラブの次なる目標へのDNAを作ってほしい」と言われ、ここに呼ばれました。それを私は、結果への責任であり、覚悟だと解釈しました。

だから、ファジアーノ岡山で最後にできる私の仕事は、ここでけじめをつけることだと思います。そして、この2年間の経験をクラブの歴史に上積みし、新たに変わっていくことがこのクラブの未来なのだと確信しています。

クラブのDNAを持ち、歴史に経験を積み重ねて、新たに変わっていく。そのためのけじめ。

ホントに困難な役割を背負って、戦わねばならない厳しいプロの世界だなあ、と思う。

岩政選手はコメントの最後は、

ただ、私はサヨナラではない気がしています。たまに当たる私の予感です。

「想いは届く」

皆さんに教えられました。

本当にありがとうございました。

今年の会場は岡山ドーム。

さて、12月10日当日。天気は良いけど、さすがに12月なので肌寒い。

前年の「ファン感謝デー」の会場は「オレンジホール」という会場だったけど、今年はもっと広い「岡山ドーム」で開催。過去最多の約3100人が参加したという*7

ファジ選手と3100人が交流 岡山ドームで「ファン感謝デー」: 山陽新聞デジタル|さんデジ

▼前年は同じ駐車場に駐めて「オレンジホール」まで15分ほど歩いたけど、今回は会場の「岡山ドーム」が目視できる距離。

▼入り口。開場は12時だったけど、僕がここに到着したのは12時20分頃。来る途中には、まだ入場待ちの長い行列ができていた。

▼「平均来場者数1万人達成!」「J1昇格プレーオフ初進出!」このポスターはいいね!売らないかな?

▼樽募金。これにお札をいっぱい入れて、専用スタジアムを建設しよう!

▼チラシ。全てを網羅するのは難しそうなラインナップ。

▼ドーム内は大勢の人。スタンド席あり。ステージ前の良い場所で観るには、やはり早めに来る必要があるなあ。

▼賑わいのなかでも居場所がわかるファジ丸さん。今日もファンサービスで大人気。

▼13時から開会。まずは監督選手コーチ社長勢揃いで挨拶。

▼屋外の賑わい

▼もちつきコーナーでは選手も登場。

▼グッズ販売

▼「ワンタッチパス」ポイントを景品に交換*8

▼休憩エリアでは飲食OK

▼「サイン会」

▼小学生対象「選手とミニゲーム」

▼「トークショー」は2部構成

▼14時15分からは「選手による出し物」。まずは「岡山ガールズコレクション」。トップを飾ったの他は「岩政モンロー」!!

youtu.be

昨年のファン感謝デーでの「女子アナ」実績もあるので、女装は既定路線であった。

それにしても、明るい場所で見る「岩政モンロー」の衝撃は小さくない。前年は「脚がキレイ」と評判だったが、今回は「背中もキレイ」ということも確認できた。

残念ながら今季にて退団するので次回はない寂しさはあるが、もしも契約更新していたら、ますます露出度が増して、今度はビキニの水着姿にでもなっていたかもしれない。

いずれしても、岩政選手をここまでイジることを可能にした加地Pの手腕は評価されるべきだろう。他クラブが持っていない強みである。

「岡山ガールズコレクション」では、そのあとに「のび太くん&しずかちゃん」「ぺこ&りゅうちぇる」「林家ペー&パー子」など「オバマ大統領&メリケル首相」「戸田奈津子さん」など、大変豪華なステージが続いた。

▼お馴染み、日本を代表するエンターテインメント集団「笑点」

▼「喋って喋ってどすこいドスコイファジアーノ岡山」(?)には長澤監督(?)の姿も。

▼「松原修平記念試合」。プロレス好きで知られる選手会長・松原修平選手の興行。

▼松原選手は12月5日に契約満了が発表されていたが、12月27日にはカマタマーレ讃岐への移籍が決まった。

松原修平選手 カマタマーレ讃岐へ移籍のお知らせ | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA

▼試合に勝利した松原選手は、自分を胴上げしろ、とステージ脇にいる選手を集める。と思わせて、サプライズで岩政キャプテンを胴上げ。加地選手から「大樹、ありがとう」の声も。

▼「選手による出し物」を終えて、最後のお楽しみ「グッズ抽選」。岩政キャプテンと長澤監督がくじを引き、当選者に直接手渡しした。 

お別れ

▼最後にもう一度ステージで勢揃い。来季はこのクラブにいないメンバーもいると思うと、寂しく名残惜しい。

▼今期限りでの退団が決まっている岩政キャプテンが最後の挨拶。普段の雄弁さはなく、言葉に詰まり、涙も見せた。

一部を書き起こし。まずはキャプテンとして選手を代表して。

うねりとか街の盛り上がりとか言うんですけども、それは結構漠然としてて、評価ってどうするのか別れるところがあるんですけれども、今年はもう確実にこの街にあって、あのスタジアムにあって、それは素晴らしかったです。

そして、個人として退団の挨拶も。

最後すごい景色をみなさんと見るつもりでした……だから、こういう終わり方になって、戸惑っていますし、悔しいですし、残念に思っています。

ご本人曰く、本当は涙もろく、泣きたくなるときもあったが2年間ずっと耐えて、この最後のときに涙はとっておいたという。

彼が背負っていたもの、常々口にしていた「覚悟」の大きさ・重さをズシンと感じさせられる瞬間だった。2年間の苦しみも、今季終盤の盛り上がりへの喜びも、目標達成を逃した無念も伝わってきて、一緒に泣いた。

岩政選手の公式ブログでの退団コメントは次のように締めくくられていた。

2年間ありがとうございました。もの凄い2年間でした。信じられない2年間でした。

苦しかった。振り返れば楽しかった。

本当にありがとうございました。岡山が大好きになりました。

夢を叶えたかったです。

彼自身の思い描いていたJ1に昇格して戦うという夢は、確かに叶わなかったのだと思う。しかし、この2年間で、この街のファジアーノ岡山というクラブを大きく飛躍させてくれた。それはクラブのDNAに刻まれ、歴史に上積みされた。特に2016シーズンに僕が目にした景色は、まさに夢に見た夢だった。ありがとう。お疲れ様*9

虹の彼方に

▼イベントが全て終わり、みんなが開場を後にするときのBGMは、電気グルーヴ「虹」だった。Cスタでの選手入場前にかかる「虹の彼方に(Over the Rainbow)」*10に因んでるのかな?なかなか高度な選曲。

虹の彼方にある世界を、夢見続ける。単にJ1に昇格するという目標ではなく、地域に愛される日本一の市民クラブの夢を。

この記事で取り上げたベテラン選手2人のように、加地選手のように残る人もいれば、岩政選手のように去る人もいる。もちろん他の選手も契約更新、移籍、引退、加入などさまざま。そして、クラブ運営を支える人も、応援する人も、街で暮らす人も、変わること変わらないことが入り混じりながら未来へ向かう。

僕たちが2016年に観たファジアーノ岡山はもうないけれど、2017年になってもこの街でファジアーノ岡山を観ることはできる。

そのことに感謝して、次へ進んでいこう。

*1:シーズンパスは、年間ホームゲーム21試合分の座席チケットをお得に購入できて特典あり。この「ファン感謝デー」参加というのも大きな特典かなと思う。

すでにファジアーノ岡山の2017シーズンパスも発売中だよ!
【2017年シーズンパス】12月16日(金)より販売開始! | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA

*2:『心を整える』といえは、言わずと知れたベストセラー。サッカー日本代表のキャプテン・長谷部誠選手(ドイツブンデスリーガ・フランクフルト所属)の著書。

そんな長谷部選手も、2016年にモデル・タレントの佐藤ありささんと入籍、年末には国内で結婚披露宴が行われたとか。正に人選の節目の儀式をこなしていますなあ。おめでとうございます。

*3:竹の節目のエピソードは、「校長先生のお話」で使われていそうだけど、中は空洞なのに節目をつくることで「軽い」のに「強い」という竹の性質は植物の中でも特異であり、科学的にも研究されているそうだ。

どうして竹は節をもっているのか? - 山梨大などの研究チームが解明 | マイナビニュース

*4:加地選手は読んでいるのかどうか知らないけど、同姓の別人・加地倫三さん(テレビ朝日のゼネラル・プロデューサー)の著書。テレビ朝日系列の番組「アメトーーク!」や「ロンドンハーツ」のプロデューサー「加地P」としてテレビでも見かける人。

*5:『Jリーグサッカーキング2016年10月号』PP.30-35。なお、この号は「ファジアーノ岡山 総力特集」で、他の選手・監督・社長のインタビュー満載だった。

*6:2017シーズンの「ファン感謝デー」のいつ実施するかは分からないけど、例年通りならやはり12月中旬かな?

*7:この人数だと「オレンジホール」にはキャパシティ的に無理だよね、と思っていたら、どうやら「オレンジホール」は2017年6月末に閉館して解体することになっているという。
オレンジホール解体、再開発へ 岡山県卸センターが事業者公募: 山陽新聞デジタル|さんデジ

*8:「ワンタッチパス」は、Jリーグ全試合観戦記録システムのことで、毎試合スタジアム入場時にファンクラブカードをかざすことで、来場が記録されるしくみ。来場ごとにポイントが貯まり、溜まったポイントに応じた景品が貰えるよ。

ワンタッチパス - Wikipedia

*9:コレを書いている1月9日時点で正式発表はまだないけど、東京ユナイテッドFC(関東1部リーグ)に選手兼任コーチとしての加入するとの報道があった。とても岩政先生らしい挑戦、応援したい。
(2017-01-11追記)正式発表あり。東京ユナイテッドFC、ファジアーノ岡山、両クラブ公式サイトでもニュースリリース。どちらにも岩政選手の「先生」らしいコメント。

岩政大樹選手新加入のお知らせ | TOKYO UNITED FC
岩政大樹選手 東京ユナイテッドFCへ移籍のお知らせ | ファジアーノ岡山 FAGIANO OKAYAMA

*10:Cスタに虹がかかったこともあるよ。

虹の彼方に、Challenge1の夢は叶うか。 - 2016 J2第21節ファジアーノ岡山vs清水エスパルス 観戦