今年のお正月、僕はどこかに旅行することもなく、年明けから数日間ずっと家で過ごしてた。年末繁忙のお仕事が、大晦日31日18時頃になんとか終わって、帰宅してからぐったりと年越してそのままダラダラと。
一方その頃、米国を13年前に出発していた旅人は……2019年の年明け早々、遥か遠くの目的地へ到達していた。
NASAによれば、2019年1月1日、太陽系外縁天体探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」が、カイパーベルト天体「2014 MU69」へのフライバイ(近傍通過)探査に成功した。1
この天体「2014 MU69」は、愛称「ウルティマ・トゥーレ」(=世界の果て、の意)
最接近10時間後にデータが地球に送信されはじめ、その画像が公開されている。今回の最接近観測データは今後20ヶ月に渡って送信されるという。2
人類史上最も遠い目標天体へ、最も近づいて観測することに成功。2019年新年早々の偉業に興奮して、僕の探究心も大いに盛り上がっている。
2019年2月22日には、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」がいよいよ小惑星「リュウグウ」へのタッチダウン(着陸)に挑むという大きなイベントもある。地球の外の広大な宇宙を想って、空を見上げる日が増えてきそう……
ブライアン・メイ博士もその旅路を称え、新曲を捧ぐ
2018年11月に公開された劇場映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットにより、ここ数ヶ月の伝説的ロックバンド「クイーン(Queen)」が改めて注目を集めている。3
その「クイーン」結成メンバーでもありギタリストであるブライアン・メイさんは天体物理学者でもある。1970年頃のバンド結成当初には英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンで天体物理学を研究していたが、音楽活動専念のため研究を中断。2007年に研究を再開して博士論文を提出、ついに「Dr. Brian May」(ブライアン・メイ博士)となった。4
メイ博士は、今回の探査ミッションに2015年から共同研究者としても参加しており、2019年1月1日のイベントにも登壇して、「ニュー・ホライズンズ」の偉業を称えるミュージックビデオをYouTubeで公開した。5
4分ほどのミュージックビデオは、カッコイイ音楽と映像を楽しみながら、「ニュー・ホライズンズ」の打ち上げから現在に至る旅の行程をイメージすることができる。
「ニュー・ホライズンズ」のこれまでの主な行程 6
日付(UTC) | 行程 |
---|---|
2006-01-19 | アトラスV型ロケットで打ち上げ |
2006-04-07 | 火星軌道を通過 |
2007-02-28 | 木星に最接近(距離2,304,541km) |
2008-06-08 | 土星軌道を通過 |
2011-03-18 | 天王星軌道を通過 |
2014-08-25 | 海王星軌道を通過 |
2015-07-14 | 冥王星に最接近(距離13,695km) |
2019-01-01 | 「ウルティマ・トゥーレ」に最接近(距離3,500km) |
「ニュー・ホライズンズ」は初めて冥王星に近づいて観測した宇宙探査機であり、我々が目にする冥王星の高解像度写真はこの探査のおかげでもある。7
そして今年2019年、小惑星「ウルティマ・トゥーレ」に最接近。これは史上最も遠い天体を訪れたということになる。その観測データは2020年11月ごろまでに少しずつ送信されてくる予定だという。
どれくらい遠くて、どれくらい近づいたか
太陽から「ウルティマ・トゥーレ」までの距離は約65億キロメートル……と言われても、数字が大きすぎでピンとこない。
そこで、太陽系での距離の「ものさし」として「天文単位」で見てみよう。
「天文単位」とは、太陽と地球の平均距離に由来する単位。1AU(1天文単位)=149,597,870,700m(およそ1億5千万キロメートル)。
たとえば、太陽と太陽系の主な天体との距離は次のように表せる。
太陽系の主な天体の軌道長半径 8
天体 | 軌道長半径(天文単位AU) |
---|---|
水星 | 0.387 |
金星 | 0.723 |
地球 | 1.000 |
火星 | 1.524 |
木星 | 5.204 |
土星 | 9.582 |
天王星 | 19.201 |
海王星 | 30.047 |
冥王星 | 39.445 |
2014 MU69(ウルティマ・トゥーレ) | 44.581 |
下の図は、太陽系の天体がどのように広がっているか示した図であり、左側と下側の目盛りは中心の太陽の位置をゼロとして天文単位(AU)である。
アルファベットがふってある赤い点は、「J」=Jupiter木星、「S」=Saturn土星、「U」=Uranus天王星、「N」=Neptune海王星。
海王星軌道(太陽から約30AU)より外側に、多数の天体がドーナツ状の帯を形成していて、この領域は「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれている。「太陽系外縁天体」を形成するグループの一つ。
1990年代以降の観測で海王星より遠くの天体が次々発見されていき、「カイパーベルト天体」やさらにその外側の「オールトの雲」などが分類されている。かつて惑星だった冥王星(太陽から39.445AU)も準惑星としてこの「カイパーベルト天体」に含まれるようになった。
2014年に発見された「2014 MU69」=「ウルティマ・トゥーレ」の軌道長半径は44.581AU。地球との距離は44.28AU、約65億キロメートルという「ものすごく遠く」にある。上の図でいえば画像の端ギリギリくらいに位置する。やはり人類の技術がたどり着いた「世界の果て」という名が納得できる。9
前述の日程のとおり、探査機「ニュー・ホライズンズ」は2019年1月1日に「ウルティマ・トゥーレ」まで3,500キロメートルの距離で近傍通過(フライバイ)した。この距離を比較してみると……
距離比較対象 | およその距離(km) |
---|---|
地球と月の距離 | 380,000 |
人工衛星の静止軌道(地表から) | 36,000 |
ニュー・ホライズンズ-ウルティマ・トゥーレ最接近 | 3,500 |
日本列島の長さ | 3,000 |
地球と月の距離のおよそ100分の1、静止軌道上にいる日本の気象衛星「ひまわり」などのおよそ10分の1、地上で日本列島の長さとほぼ一緒。宇宙スケールで見ると「めちゃ近づいた!」に違いない。
ニュースになる探査が続々と
2019年2月8日のNASAが発表。その後届いた観測データの分析から、当初の「雪だるま」でなく「パンケーキ」が2つくっついた形とみられる、らしい。10
なるほど、近くに行って観測してやっと形が分かってきたのだ。
実際の天体の近くに行くだけでなく、着陸してその天体の物質を持ち帰る(=サンプルリターン)が可能だったら、当然もっと多くのことが分かりそう……
さて、全く別のプロジェクトの話……日本のJAXAが打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」が、今年2019年2月22日についに小惑星「リュウグウ」へ着陸(タッチダウン)するミッションに挑む。こちらは近くを通るのでなく、着陸=距離ゼロまで行く!
「はやぶさ2」は、先代と同様に、探査に行ったきりでなく、*地球への帰還もする予定。さらに、そこにある物質を地球に持ち帰る「サンプルリターン」を目指している!
小惑星へのタッチダウンの時刻は、2月22日(金) 午前8時頃を予定しています。
これに合わせて、管制室からYoutubeの実況生中継を行います。
放送時間とURLはまた紹介しますね。ハッシュタグ #haya2_TD をつけて応援メッセージ送ってくださいね!
(IES兄)— 小惑星探査機「はやぶさ2」 (@haya2_jaxa) 2019年2月15日
「はやぶさ2」が「リュウグウ」の近くには既に昨年2018年6月には到着している。そのときに、ブライアン・メイ博士もツイートしている。
イギリスのロックバンド、クイーンのブライアン・メイ @DrBrianMay さんに、リュウグウの写真を立体視用に加工していただきました。表面の凹凸が非常によく分かります。
Thank you very much! > Dr. Brian May https://t.co/h1QVVP3ML2— 小惑星探査機「はやぶさ2」 (@haya2_jaxa) 2018年6月27日
当初予定では、昨年10月下旬頃にタッチダウン実行予定だったものが、現地に到着後に慎重に観測して着陸ポイントを探るために今年2月にまでかかった。
タッチダウンに想定していた直径100メートルほどの平らな領域がなく、最終的には直径6メートルの円の中を狙うことになったそうで、なかなか難易度が高そうなだけに慎重に準備を進めていた。それもとうとうタッチダウン間近。
「はやぶさ2プロジェクト」の公式サイトや公式ツイッターアカウントでは多くの最新情報が出ていて、当日はライブ中継もあるのでインターネットで一緒に見守ることができそう。11
▼「はやぶさ2」タッチダウン運用ライブ配信は、2019年2月22日(金)午前06:45-09:15頃
この2019年に入ってから、実は宇宙関連のニュースは他にも多くあったのだけど、ちょっと縁がありそうな2つ、「ニュー・ホライズンズ」と「はやぶさ2」のミッションに個人的に注目している。
宇宙を旅するミッションが、今後どんな知見を僕たちにもたらしてくれるのか、ワクワクし続けているよ。
- New Horizons Successfully Explores Ultima Thule ↩
- New Ultima Thule Discoveries from NASA's New Horizons ↩
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映画『ボヘミアン・ラプソディ』の国内興行収入が116億円を突破し、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を超えた。もちろん僕も映画館の大スクリーン・大音響で体験して大感動だったので、周りの人にオススメしまくった。普段は映画館にあまり行かない僕の両親が、2度も映画館に足を運ぶほどの魅力ある作品。
サウンドトラックも素晴らしく、売れているのも納得。
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名誉博士でなく、ガチの論文博士なのが凄い。
クイーンのブライアン・メイ氏 博士号を取得 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ちなみに、twitterのアカウント名はDr. Brian May(@DrBrianMay)。 - ブライアン・メイ、NASAで探査機ニューホライズンズの偉業を称える楽曲を初公開。20年ぶりのソロ - Engadget 日本版 ↩
- ニュー・ホライズンズ - Wikipedia ↩
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冥王星 - Wikipediaの見出し写真なども。
- 主な天体データ - 太陽系 - Wikipedia より ↩
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ちなみに、42年前の1977年に打ち上げられたNASAの探査機「ボイジャー1号 Voyager 1」は太陽系を脱出しており、地球からの距離およそ145AU(=およそ217億キロメートル)の星間空間(インターステラー)を飛行中。原子力電池により2025年頃まで地球との通信は維持できると期待されているという。
NASAのボイジャー情報ページで最新情報を追跡できる。
また、2013年の記事「ボイジャー1号、ついに太陽系を脱出 | 月探査情報ステーション」でも、ボイジャーのミッションが分かる。
インターステラー……と言えば、僕個人的に大好きなSF映画『インターステラー』を思い浮かべる。今はAmazonプライムビデオにあるので、プライム会員の人は無料なので超オススメ!
- New Horizons’ Evocative Farewell Glance at Ultima Thule | NASA ↩
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とりあえず「はやぶさ2」の基礎知識を得ようと思ったら、松浦晋也さんの著作『はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査』(講談社現代新書 2014)をおすすめ。「はやぶさ2」がミッション遂行のためにどのような構造・しくみを持っているか、理学的・工学的意義、日本の宇宙開発の歩みや他国との比較などをコンパクトに新書で読めるので、手っ取り早くポイントを押さえるのに良い本かと。