スポーツで無理することについて。

プロテニスの大会のATPツアーファイナルで、錦織圭選手が準決勝でフルセットの末、ジョコビッチ選手に敗れた。もう一方の準決勝では第2シードのフェデラー選手と第3シードのワウリンカ選手の対戦となり、こちらはファイナルセット、タイブレークに至った。ワウリンカ選手が何度かマッチポイントを握るも、最終的にフェデラー選手が熱戦をものにした。

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ところが、翌日の決勝戦前にフェデラー選手は故障により棄権を表明。

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フェデラー選手の棄権は残念ではあるけど、正しい選択だと思う。

無理を押してしまう習性。

プロアマ含めてスポーツに取り組む選手というのは、自分の体に負荷をかけて、時に怪我を負いながら勝負する。ここぞという時には身を削ってでも挑戦してしまうものだと思う。

そして、それは取り返しのつかない結果につながる恐れもある。

先日、フィギュアスケートの羽生選手が練習時の負傷を押して試合に臨んだ姿は、本人の気迫は感じたが、それ以上にとても痛々しかった。

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僕はこのチャレンジを決して賞賛しない。本人はわかっていて無理することもあるのだから、周りが止めて欲しかった。本人の心意気を汲むような属人的な判断ではなく、ルールと体制を整えて止める仕組みを整えて欲しいと思う*1

多くのスポーツでは、トップで競技する選手が現役でいられる時間は少なく、その後の人生の方が長い。スポーツのなかで命に関わることや後遺症の残る怪我は避けてほしい。

それはありふれた雰囲気。

僕の好きなスポーツ漫画『スラムダンク』で主人公桜木花道が怪我を押して試合に戻ろうとするシーンがある。「オレは今なんだよ!」と。選手生命に関わるような怪我である可能性もあるなかで、「ダンコたる決意」を持って、一瞬の輝きのために賭けるアツいシーンなのだが、冷静に考えれば安西先生はやはり「指導者失格」(自身で言及していたが)なのだろう。そして、観ている僕たちも活躍を期待してしまう点では同罪なのだと思う。まあこれはフィクションだから良いのだけど。

現実でもこんな状況は起こっているのだと想像できる。そして大会が大きくなればなるほど、雰囲気ができてしまうのだと思う。

僕の故障歴。

僕自身は高校時代から部活動でテニスに取り組んできた*2が、2年生の時に膝の靭帯を故障したことがある。幸い手術するようなこともなく保存療法と筋力強化で回復を図った。それでも数ヶ月はコートで打つこともできず過ごすことに。僕の高校の部活動は、大学受験に備えて通常は3年生の5月頃には引退だった。実質2年ちょっとの活動期間の中で、数ヶ月プレーできないというのはとても応えた。

僕の場合、もともとが上手いとか実績を残しているとかでもなく、怪我さえなければ活躍していたのに……という想いは一切なかった。また、テニスは(団体戦はあるけど)基本的に個人競技なので、チームに迷惑をかけることも無かったように思う。怪我をした自分自身のこころにどう向き合うか、という問題だけだったように記憶している。そして、ありがたいことに、20年以上たった現在も日常生活を送るにあたって何ら後遺症なく過ごすことができている。

敢えて止める。

競技に取り組むアスリートにとって、「からだ」と「こころ」のコンディションを整えていくことは避けて通れないタスクだろう。なかでも「からだ」については、人それぞれ異なるだろうが、どこかに肉体的な限界があるはず。決して精神力で乗り越えられるものではないと思う。トップ選手はそのギリギリのところを追求しているのだろうけど、回復できる怪我ならまだしも、後遺障害を残すような重大な怪我はぜひとも回避してほしい。

限界の臨む瞬間、選手は覚悟の上で挑んでいるのだろう。だからこそ驚くべきパフォーマンスを発揮して、観るものを感動させる美しさがあるのだろう。しかし、周りで選手を支える人たちは、取り返しのつかない事態を科学的・合理的に避けるための仕組みを整えなければならない。そして僕たちも含めた観客は、止めさせる判断を尊重しなければならない。

今の僕にとって、スポーツは観戦することが主になっている。観戦を楽しみながらも、時々そこに潜む危険についても思い出してしまう。選手がいろいろなものを犠牲にしながら取り組む姿を、エンターテインメントとして消費する後ろめたさを感じてしまうことがあるのだ。

だからこそ、興行よりも、競技よりも、選手の健康や今後の人生を大事にしてほしい。もしかしたら、選手の胸の内に未練は残るかもしれないが、そこは線を引いて欲しいと願う。

*1:僕がいつも楽しみに読んているブログで、この件について言及されている。

王者の試練!練習中の激突・大流血にも負けずに演技をつづけた羽生氏は男だが、休むのもまた勇気だと思う件。 : スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム
このブログは妄想が溢れた想像力豊かな記事もあるけど、それも魅力。筆者「フモフモ編集長」の文章力は素晴らしくて、書き下ろしの本も出版されているくらい。

*2:ブランクあったけど、今年の夏からまたラケットを握っているよ。
https://ishiharaken.com/entry/2014/08/15/072000